アニメーションはよく、記号で出来てるとかいいますよね。意味分かります?ちょっと前までまったく意味が分かりませんでした。まともに説明すると難解になるなので、まず、下の図をご覧ください。

↑左は記号、右は記号性がうすいなにかぼんやりしたものです。
記号というのは、はっきりした輝度の差をもった絵のことだと言えます。簡単にいえば、モノクロの階調がはっきりしているということです。もっと簡単に言えば、白と黒の境界がはっきりしているということです。
わたし達は、写真の中にも記号を見出しています。下のサイトに例示されている 「図1:色差成分の変化には鈍い」 をご覧ください。
http://kumikomizine.jp/article/detail/49これは、YCbCrの分解の説明ですが、輝度以外の情報は、ぼかしても気になりません。これは、わたし達が輝度を頼りに情報を受け取っていることを明確にあらわしています。
もうお分かりですね。アニメは輝度のはっきりした輪郭線があるから記号なのです。
極論すると、もうただそれだけです。(極論大好きw)同様に漫画も記号であると言えます。
では、表現として、記号的だとどういう意味があるのでしょうか。
記号的な情報に対しては、ゲシュタルト知覚が有効に働くと思われます。
∵
↑これが顔に見えませんか?ゲシュタルト知覚とは、こういった、単純な情報からもなんらかの意味を読み取ろうとする人間の脳の性質のことです。
輝度情報が低いとゲシュタルト知覚はあまり有効に働きません。
つまり、アニメはゲシュタルト知覚が有効に働くため、楽に情報を読み取る事が可能なのです。アニメが子供向けの作品として向いてるのはそのためだと思われます。
この他にも記号には強い緊張をもたらす効果があると思われます。
自然界のものよりも人口的なものに記号性は現れます。また、光と影のコントラストにも記号が現れます。これらは、わたし達の脳に緊張をもたらすと思われます。
この話をすると語弊があるかもしれませんが、アニメの絵は、パチンコやアダルトゲームなどによく使われますよね。あれは、気持ちを高揚させるような強い記号性によって人に緊張感をもたらすからだと思われます。とくにセルアニメはそういう強い緊張感を含んでいます。今回は趣旨からはずれるので詳しくは論じませんが、記号性だけでなく、原色に近い強い色にもそういった効果があると思われます。色にも記号性と同じような効果があるのですが、色は記号ではなく、記号に対する付加情報だと考えられます。

↑上の図をご覧ください。色をぼかしても記号性は失われません。
では、ジブリのアニメなんかはどうなんでしょうか。
ジブリのアニメもセルアニメですから、緊張感が強いはずです。しかし、どこか暖かい心地よさが作品にはあふれています。これは、ずっと疑問でしたが、最近その答えが分かった気がします。
どこかのサイトのアニメの背景の描き方講座に、デジタル作画ではグラデーションがきれいに出すぎてまずいので、それを水彩調にぼかすことが大切だと書かれていました。これをみたときに、あ~。そういえばアニメの背景は、記号性が押さえられているな‥と言うことに気がつきました。

左は、デジタルなグラデーション、右は、ゆらぎを加えたものです。どうですかw右がやわらかいですよね。左は強い緊張を感じます。
はっきりとした一定階調のグラデーションは、自然界には存在しません。AfterEffectsのエフェクトにフラクタルノイズ(PhotoShopでは雲模様)というのがあります。あれは1/fゆらぎとよばれる自然界に存在するランダムと規則性の中間のようなものだそうです。アニメの背景は、フラクタルノイズ的な自然のゆらぎによってアニメの画面情報全体から緊張感を下げる役割をしていたのです。
あるサイトで芸術とは緊張と緩和だと言ってる人がいましたが、芸術がどうこうはわかりませんが、すぐれたアニメ作品は緊張と緩和で構成されているがゆえに、いかがわしいものにならないのだろうとわたしは考えています。崖の上のポニョが手描きにこだわった作品となったのも、そういった心地よさを出したかったのだと推測しています。
XSI TIPSなので、XSIの話で締めくくっておきます。XSIには強力なトゥーンシェーダーがあります。CGに記号性を付加するにはトゥーンインクによる輪郭線はとても有効です。XSIのトゥーンシェーダーには、セル塗りだけでなくぼかしが使えます。ただし、シェーダーのみで作るとどうしてもグラデーションがはっきりしてしまいます。さきほどの話に出てきた、アニメ背景をデジタル作画する技法をテクスチャーにうまく使えば、キャラクターに対してアニメの背景のような、温かみのある絵がつくれることが分かりました。やり方は非常に簡単で、ローポリの技法でテクスチャーに影や風合いを描きこんでやるだけです。(ちなみに、ある程度ハイポリでローポリ並のUVを展開するのは至難の業ですw)どこかのゲーム会社の社長が東京ゲームショーで、イラストシェーダーというあたらしい技術を開発したみたいなことを言ってました。後日CGWORLDをみると、「一生懸命テクスチャーを描いてるだけです」と、デザイナーが証言してましたw
まだまだ、わたしの3Dの技能が低いため、その域に達していませんがwこれは、セルアニメにはない新しい表現になり得ると考えています。なぜなら、この技法を作画アニメーションに使うのは絶望的に手間がかかってしまうからです!
わたしの作品をみても信用ならない方は、やさいのようせいや戦場のヴァルキュリアを見てくださいw。
なお、自主制作作品であるアンリアルガールにイラスト調のレンダリングを使用している理由は、リアルな3Dは自主制作に向かなという制作上の都合があります。背景まで3Dで作り込んだフル3Dアニメだとレンダリングに時間がかかり過ぎるからです。アンリアルガールは動画部分を3Dでつくり、背景は手描きの静止画を使用するハイブリットアニメにしようと思ってます。背景を静止画で作画する場合、光源などがはっきりとしたリアルなレンダリングは、よほど背景をリアルに描かない限り浮いてしまいます。セル調でもよかったのですが、上記のような考察の結果、セル以外の表現でも作画アニメと同等の表現が可能だと考え現在のイラスト風の絵になったわけです。
ここ数年、わたしはずっと、イラスト風の画質のアニメーション作品を作りたいと考えていました。これは、新海誠監督の秒速5センチメートルにヒントを得ています。秒速5センチメートルでは、背景と人物の調和をあげるために従来のバケツ塗りをやめてフォトショップですべて色をつけているそうです。影のふちに照り返しの表現となる2重塗りがされており、背景にあわせてすべてのカットで肌の色を変えてあるそうです。(ものすごく大変で二度とやらないとおっしゃってるのをどこかのサイトで見ましたw。そんなに大変だけど、やる意義があるのだったら3Dで同じようなことは出来んかな~と思った訳です。XSIのトゥーンでリムライトをうまく使うと秒速5センチメートルの様な絵の雰囲気も作れます。)
ちょっと長くなりましたが、アンリアルガールというタイトルもリアルな3Dでは無い!という意味が含まれています。日本のアニメーション界を代表する宮崎駿監督と富野由悠季監督は、公の場で手痛くデジタルを批判しています。しかし、われわれにとってデジタルでものをつくってゆく事はもう避けられないわけで、デジタルは駄目だと嘆くのではなく、デジタルの特性を生かして表現の幅を広げる必要があると感じています。ちなみにリアルな3Dを批判してるわけではありません。リアルな3Dの場合は、実写映画で用いられる記号性をあげるための方法論を入れていくことが必要だと感じています。(被写界深度で人物を強調したり、極端な光源で陰影を強調して記号性をだしたりする方法なんかが思いつきますが、他にもいろいろありそうです。ハリウッド製のフル3D映画はとくに光源に気をつかってますよね。あれは、光源によって記号性を強調するためではないかと私は思ってます。しかし、この方法で3Dアニメーションをつくるとなるとレンダリングにかかる時間がものすごいことになって、個人製作ではちょっときびしそうです。)
つたない文章でしかもとても長くなりましたが、全部読んでくださった方、ありがとうございます。私は学者ではありませんし、論文調で書いてますがまったく私の勝手な推測と考察かもしれません。しかし、デジタルについて簡単に批判され何の反論もできないのでは、これからものをつくる事ができなくなってしまうと思い頑張って書いてみました。
私などは3Dをはじめて4ヶ月程度の素人です。まだまだ、作品としてはこれからという状態で、上記の文章を証明するためにもしっかりした作品を作れるように努力したいと考えています。
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