検証:3Dアニメに輪郭線は必要か?その2 

検証:3Dアニメに輪郭線は必要か?[まとめて読む方はこちらから]


今回予告では、実際に3D上に線を引く予定でしたが、その前に輝度とコントラストについて認識を整理しておきたいと思います。今回書いてる問題は、かなり以前から暖めていた秘蔵の内容です。ちょっと自信があるというか、3Dアニメを作るうえでとても重要な事なので頑張って書きました。このブログを訪れたのも何かご縁です。長いですが、ぜひご一読下さい。

※なお、話がややこしくなるので「3Dアニメはなぜ動きが硬いのか?」に出てくる変形の話とは分けています。

下の二つの図をご覧下さい。どちらも有名な錯視です。画像は「北岡明佳の錯視のページ」から拝借させて頂きました。

test12_tume2.gif
↑動画ではありません。静止画ですが動いて見えますよね。


test12_tume2.gif
↑中心の+印をじっと見てください。しばらくするとまわりの色が消えます。

これは、以前からぼんやりと感じていた事をすべて解決してくれる魔法の様な実験です。

なぜ、動いたり消えたりするのでしょうか。

どうやら人間の目は微小に振動しているらしいのです。なんの措置もなしに、脳が世界を直接見ることがあれば、世界は揺れているわけです。ところが、脳にはそうした問題を解決する振動補正機能の様なものがあるらしいのです。輝度の組み合わせによって、振動補正がきかない事があって、上の錯視の様に静止画が動いて見えるわけです。もしくは、振動補正がききすぎて画像が消失してしまうのです。
(※上記文章は学術的には正確な解釈では無いかも。分かりやすく書いてますのでご注意を。)
何にせよ、たしかに動いたり消えたりする性質があるのは間違いありません。

もうひとつ画像を見てください。同じ形の画像ですが、輝度が高い黒い線の方がディティールまではっきり見えます。


rinkaku.gif
↑左右の絵はまったく同じ形状です。輝度が高いものはディティールまで見えますが、低いものはあまり見えません。

では実際にコントラストの違う画像をアニメーションしてみて残像の残り方を見てみましょう。




これらの実験から、輝度・コントラストが高い情報は、脳にとって読み取り解像度が高く、かつ読み取るのに時間がかかっている事がわかります。

フリーダムが12FPS(2コマ)で作られているのは有名な話ですが、はじめてあれを見たとき驚きを感じたのを覚えてます。それまでのセルシェーダーのアニメよりも圧倒的に自然に見えたからです。その理由も残像にあると推測しています。そもそも輪郭線のあるコントラストの高い絵は、12FPS程度が良いのではないでしょうか。もちろん作画でもフルコマで作画する事がありますし、絵の前後の変化量に対して動きは決定されるので、必ずしもフレームレートだけでは判断できないのですが、輪郭線のあるアニメにおいて一般的な動きについては、24FPSよりも12FPSが自然に見えます。

実は、アニマティックを作っているとこの現象を肌で感じることがあります。12FPSだとアニマティック時の動きが少しカクカクして見えるのに、輪郭つきでレンダリングするといい感じになるのです。逆に12FPS用に作った連番画像をAfterEffects上で並べたときに、2コマ設定せずに24FPSで動かすとこれも不思議なことに滑らかに動かずにカクカクして見える事があります。残像に対して動きが速すぎて読み取れないからだと思われます。

作画アニメが2コマで撮影しているのは、省力化のためだという先入観があって、簡単にFPSを補完してくる3Dでコマを抜くなんてもったいないと多くの人は考えてしまいますが、それは間違いです。適切なFPSで残像の残り方を意識して動かす必要があります。ちなみに、輝度コントラストの高い映像をやたらコマ数を増やして点滅させると‥有名なポケモンショックのような事態が発生します。(いまはそれをチェックする機械なんかもあるそうです)これも輝度が高くコントラストが高い映像が読み取りに時間がかかること関係しているのではないでしょうか。

ちなみに、一般的な3Dではこういった残像の問題を解決するにはブラーを使用します。


↑一応比較で用意しました。確かに残像は軽減されますが、ブラーの調整をしてないというのもありますが、輪郭線のある絵はあまりブラーにはむいてないようです。さらにコマを抜いたものにブラーをきちんとかけるのは、なかなか自動では難しいのです。(手作業でブラーを描いたらまた違う絵になると思います。通常のブラーとは違う、お化けと言う表現に近いアニメブラーという方法があります。アニメブラーについてはまた別の機会に検証したいと思います。)


輪郭線の無い3Dアニメにトメの演出を使ってしまうというのもよく見かける問題です。
これは、実は3Dをやってる人は経験的に誰でも知っているのですが、止まっている3Dはスチル写真の様に固まって見える現象が起きます。ある3Dの教本には4フレーム程度(0.4秒)くらいのトメが適切だと書かれています。作画アニメの演出の常識からすれば、大きな制限です。これは、輪郭の無い3Dが残像に残りにくいために発生する現象だと考えられます。

そのため3Dをやっている人は、やたらと待機モーションを入れたりして、何もしてない画面でも動きを入れたがりますが、それはそうしないと駄目だからそうしてるだけの話です。

今度3Dアニメを見るときは注意してみてください。数人が映ってる画面でもすべてのキャラになんらかの動きが入っています。逆に作画アニメではしゃべっている人物だけが動いています。どちらも不自然には見えません。しかし、これを逆にするとちょっとやばい感じの映像になります。


↑実験でつくってみました。そもそもトメを行ってる場所がかなり不自然なのですが、比較すると輪郭がある絵の方が安心できますw。3Dは、本当に氷ついたようになってしまいます。※ちなみに、ふつう作画アニメではは止まってる状態からちょっと動いてまた止まるみたいな演出が多いですね。

これらの問題は作画アニメと3Dを混ぜたときによく発覚します。動きや演出などに影響があるため、スタッフ同士(3Dと作画)で意見が真っ向から対立する(というか平行線)になってしまうこともあるでしょう。お互いが理解して、ものを作ることが理想なのですが、性質が極端に違ってくるのでなかなか難しいのが現状かもしれません。

知ってる人は知っている現象ばかりですが、意外とこの理屈をうまく説明できる人は居ないみたいです。また、こういいった問題をきちんとまとめているサイトもあまり見かけません。学術的に正しいとまでは言い切れませんが、今回はかなりうまく説明できていると自負しておりますw。3Dと作画アニメの両方をやった事がある人は思い当たる節多々あるはずですよね。(ご意見お待ちしております。)

輪郭線があってコントラストの高い映像と
輪郭線の無いコントラストの低い映像では、
残像の残り方が違うので
演出方法がまるで違ってくる!


3Dアニメに輪郭線は必要か?という問題ですが、前回の結論同様に、違いを理解して作る必要があるという事であって、輪郭が必要か不要かの問題ではないのです。(でも、これじゃあタイトル釣りだw)

3Dアニメを作画アニメ風にレンダリングして輪郭線をつけると、当然ですが演出方法は従来の作画アニメよりになります。それによって、得られるものと失うものがある事は明白です。

押井監督がスカイクロラのときに発言されていたコメントを抜粋しておきます。

-------------------------------------------------抜粋
■押井 守監督
セルシェーダーというやつですね。
輪郭線が出てくるような、そういうレンダリングなんです。
いわゆるセルシェーダーと言われているもので、3次元でモデリングして、モーションを付けて、2次元的に吐き出して、輪郭線を全部出していくというやつです。

僕は、セルシェーダーってやつは嫌いなんですよ。(会場笑)

あれにはあまり未来を感じないんです。
将来性がある方法論には思えない。ここにいらっしゃる人もそうかも知れないけれど、確かにアニメーションが好きだっていう人は、例外なしにアニメのそのライン、線が好きなんですよね。塗り分けられた色面と線、いわゆる「絵」ですよね。僕自身が絵描きじゃないということも大きいのかも知れないが、3次元を経由してそのアウトラインを出していく、輪郭線を残していくということには、映画的にあまりリッチなものを感じない。

実際、今回の『スカイ・クロラ』にもそういう提案もあったんです。
あの戦闘機のボディに貼り込んだテクスチャー、実は相当積み重ねている訳ですが、あれは単なる背景で描いたテクスチャーだけじゃなくて、様々な情報が乗っていて、それを生かす方向で行きたいということになった。
輪郭線が入った瞬間にある種の抽象が入るということなのですが、それには、僕はあまりこだわりたくない。

一方で、キャラクターの方には線が残っているわけだけど、それをどうやってマッチングさせるのか、『イノセンス』の時から、テーマとしてやって来た。
幸いにも僕の現場の場合には、二次元の線のあるものと、三次元の線のないものをマッチングさせるというノウハウの蓄積が非常にあったので、ためらわずにセルシェーダーというか、二次元的な処理は止めましょうということになった。それは、ほとんど迷わなかったですね。

逆にアニメーションをやっている時、セルでやった時も、肌のこのラインが大嫌いで、『攻殻機動隊』などもそうですが、出来るだけ肌を白くし、フィルターで少し輪郭を飛ばして、ラインを意識しないで見てもらう工夫をしていたんです。
昔は『攻殻機動隊』で、かなりどぎついフィルターを使い倒した訳ですが、デジタルになって、選択肢も広がったので、昔やれなかった、線を離れたアニメーションになった。それは、いずれそちらの方向にいくだろうという予感があったからです。

もちろん、2次元的なアニメーションも残るだろうし、そういう需要もあっていいと思うんです。

ただ、どこかで、あえてアニメと呼ぶよりは、映画として考えた場合、どちらがよりリッチな映像を作れるか、表現力を獲得出来るかという時に、セルシェーダーにこだわる人というのは、絵を描く人なんですね(会場笑)。

僕は、直感的にそれにあまり未来を感じないんですよね。
「それ、たぶんやってもダメだよ!」って(会場笑)。

もちろん、内容の変化を出すことはあるんですが、映像それ自体でいえば、まだ三次元で試していないこともあるのですが、最終的にフィルムに出力した段階で、上映する段階でみんな二次元に変換されているんです。三次元は、あくまでもバイバスに過ぎない。経由してるだけですから。だからこそ、途中経過はどうあれ、最終的に何がしたいのかということから、僕は逆算して映像を作りたい。
-------------------------------------------------抜粋

引用元はこちら
http://anime.nifty.com/skycrawlers/column/talkshow/page_06.htm

押井監督は輪郭線が嫌いなんですよねw。当時これを読んだときちょっとショックを受けました。それでも、このサイトでは輪郭線のある3Dをやろうと思ってます。そういう意味では、私は絵にこだわる人なのかもw。

ただ私も、予算のある劇場版なんかには、輪郭の無い(もしくは弱い)映像が適しているだろうと考えています。

ではなぜ輪郭線のあるものを選んだのかと言いますと‥。私のような3Dからスタートした人間にとって作画というのは逆に未知の部分があって、作画再現の課程で発見することや学ぶ事がとても多いのです。制約があるなかで作られた映像の工夫にはいつも驚かされます。むしろ、最先端であるはずの3Dが劣っていることも多いのです。なので、ずっと作画再現の3Dアニメを作り続けるというわけではなく、一度完全に作画に見える3Dを目指すことはとても意義があると感じたのです。また、現時点において、商業や自主制作を含めて完全に作画を再現できた3Dをまだ見たことがありません!(かなり近いものは出てきてますが)それは、技術や理論において何か解明されてない問題がある事を示しています。そこの部分がとても面白いなと思ってるわけです。

それは3Dの技術だけではなく、
人間がなにをどう感じながら
世界を見ているか‥
そのメカニズムを知る事
にもつながると思います。


また、この取り組みの先には、もしかすると、両方の良さを持ったものを作ることもできるかもしれません。実は告白しますと、3Dゲームをつくっていた私が本格的に映像をやろうと思ったきっかけは、上記に引用した押井監督のインタビューにあります。3Dしか知らない私は、押井監督と逆のアプローチで3Dと2Dが融合したものを目指せないかと思ったのです。(恐れ多いやつですなw)

ところで、あまり考えたくないのですが、作画系3Dが今の手描きを侵食してしまうとか、そういう類の問題があります。3Dで作画表現をやることは、すごくコストが安くなる面もあるので(今はそうでもありませんが、とくに将来において)、その流れをとめることは、おそらく私には出来ません。そのとき、大きな劣化が発生すると思われます。文明とか産業というものは、そうやって劣化しながら進歩してきたのですから‥。そうなったとしても、劣化作画アニメが氾濫する事態は可能な限り避けるべきですし、作り方の問題ではなく、最終的な映像にこだわった結果を提供するために努力するしかないと思っています。

なので、劣化作画アニメの氾濫には断固反対していますし、そういったものに、取り組もうとは思っていません!そんなもののためにやってるのではないと断言しておきます!

そういった作画アニメを侮辱する行為は
絶対にしたくないのです!


※なおここで言ってる劣化作画アニメに相当するものは現在まだ無いと思います。黎明期にチャレンジして作画より劣っている事は当然のことで、作れるようになってから必要以上にコスト削減をしたものを劣化作画アニメだと考えています。

今回もまた、理屈になってしまいましたが、次回こそは、実際に線を引いていく検証に入りますよ!
■この記事へのコメント一覧

ヒロスケさんの発言

んー、すげー。
単に技法的な制約じゃなくて脳の情報処理の問題かぁ。
メモメモ。
目から鱗が10枚落ちた。



通りすがりさんの発言

とても興味深く記事を読ませていただきました
素晴らしい考察だと思います

ただ、「作画アニメ」という言葉は通常
「作画の優れたアニメ」という意味で使うため
なにやら違和感を感じます
「手描きアニメ」のほうがしっくりくるような・・・

▼はじめまして
srさんの発言

興味深く拝見しております。
さまざまな考察をこうして文章化してまとめられるのは素晴らしいですね。
しかも実際のテスト画像なども用意して。

私は押井さんの考えに同意で、日本ではアニメの影響が強すぎて、CG制作者もアニメの記号や形式に引っ張られすぎているのでは、といつも感じています。

POCOYOというスペインのアニメーションをご存知でしょうか。
3DCGでありながらコマ抜き&リミテッドの技法を取り入れ、残像効果を利用した見事なアニメーションです。
背景・モデル・テクスチャ・ライティングを単純化し残像を強く残すことで、輪郭線のない3DCGでもこういった表現が可能になるようです。
参考までに
http://www.youtube.com/results?search_query=pocoyo&search_type=&aq=f


marsunさんの発言

ヒロスケさん

まだまだ検証をたくさんやらないと分からない事も多いですね〜。今回は比較的分かりやすい例を使いましたw。

通りすがりさん

な‥なるほど。たしかにその使い方がしっくりきますね。次回から手書きアニメと表記してみます!

srさん

ご紹介ありがとうございます!かわいいアニメーションですね〜。背景が真っ白なのと陰影のつけ方が輪郭線同等のコントラストを作り出していると感じました。

アニメの影響が強いのは作る側もそうですが、見る側もそうなんですよね‥。3Dの良作が増えて、見る側が慣れてくれると作る側の選択肢はもっと広がると思います。

3Dで手描きアニメ再現というのは、安易に選んだ道では無いとご理解いただければと思ってブログを書いております。(実際に本気で取り組むかは、かなり悩みましたw。)


▼はじめまして
ブラヴィスさんの発言

僕も3Dで線のある絵を動かすこと勉強しています。
やはり、実際にやっていて線の強弱の問題や影の出し方は悩むところですね。このあたりはシェーダーに頼るしかない問題ですよね。

しかし、アニメーションに関しては悩みがなく作画と同じように3コマどりで、全コマ手付けしていくのがBESTだと思うのです。

おそらく自動補完では無理ではないかと・・・

そうやって作った動画があるのでぜひ参考になればと思います。
http://fantasymaster.web.fc2.com/index.html
もしくは
http://www.youtube.com/watch?v=Fu9XccIS2qw&feature=player_embedded


marsunさんの発言

ブラヴィスさん
はじめまして。コメントありがとうございます!

線の太い力強い絵ですね!作画もされているだけあって動きもいいですね〜。

>しかし、アニメーションに関しては悩みがなく作画と
>同じように3コマどりで、全コマ手付けしていくのが
>BESTだと思うのです。

3Dだけをやってると、その考えに至らない事が多いんですよね。特にゲーム業界では、映像と違ってFPSは可変式で実機上でどれだけFPSを上げるかに苦心するので、コマを抜くなんてとんでもない話だとなるわけです。それにコマを抜く事とFPSを下げることは、厳密には違うというのも説明に苦心するところです‥。作画のタップ割り的な線と線の中割りとして最適の位置にキーを打つという事は、おっしゃるとおり全コマ手付けがベストだと思います。なので、なぜわざわざ当たり前の事を、錯視まで引っ張り出して説明するかというと、そういう背景があるからなのです。


輪郭線についてですが、次回は神風動画さんなんかもやってるシェーダーに頼らない輪郭線の出し方を公開しようと思いますのでご期待下さい。リアルタイムでもポストエフェクト(3D描画後に二次元的に処理する)の方がきれいな気がしますし、自動的に描かれた線とはちょっと違う手描き感が出る気がします。XSIのシェーダーもかなり調整するときれいに出ますが、前作では結局思った線が出なくて線を弱くしてしまいました‥。

コメントとは関係ありませんが、ゲームってFPSを上げるときコマとコマの間を補間するわけですが、キー入力判定だけは高いままにして、映像は補間しないで(デザイナーが打ったキーの通り)表示したら、トゥーン系ゲームのアニメっぽさがもっとあがる気がするのですが、どうでしょうかね??さらに厳密にクォリティを求めるなら、アタリ判定やキー入力のある処理のときだけ補間するとか‥。(たぶん割と簡単にできると思うので、だれかやってみてくださいw)リアルタイムでのイベントシーンなんかが異様に高いFPSだとヌルヌルするのが気になるんですよね‥。

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